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大阪地方裁判所 昭和62年(行ウ)63号 判決 1989年1月26日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 被告東淀川税務署長が昭和六一年五月三〇日付で原告に対してした昭和五九年一一月分及び同年一二月分の物品税の更正をしないことの通知を取消す。

(二) 訴訟費用は被告東淀川税務署長の負担とする。

2  予備的請求

(一) 被告国は、原告に対し、金八七五万六〇〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告国の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告及び破産会社

(一) 破産者株式会社オリエントダイヤモンドカンパニー(以下「破産会社」という。)は、昭和五九年一月二〇日、目的を書画・骨董品の輸入及び販売、ゴルフ会員権の仲介及び販売代理店等、本店所在地を大阪市西区阿波座一丁目一五番一五号、商号を新日本債券株式会社とする株式会社として設立され、同年八月一日、本店所在地を同市淀川区宮原一丁目一九番七号に移転し、同年一一月一日、商号を株式会社オリエントダイヤモンドカンパニーと変更した。

(二) 破産会社は、昭和六〇年八月二一日、大阪地方裁判所により破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。

2  本件処分の存在

破産会社は、ダイヤモンドを販売したとして、被告東淀川税務署長(以下「被告税務署長」という。)に対し、昭和五九年一一月分から昭和六〇年五月分までの物品税につき、別紙の納付税額欄記載の金額を納付すべき税額とする申告(右各申告のうち、昭和五九年一一月分及び同年一二月分を以下「本件各申告」という。)をし、右金額を納付した。

しかし、原告は、昭和六一年二月二八日、被告税務署長に対し、破産会社のしたダイヤモンドの販売は、まったく形式的かつ詐欺的な極めて違法性の強いものであり、物品税法(以下「法」という。)三条一項に規定する「小売」(以下、単に「小売」という。)に該当しないと主張して更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。被告税務署長は、同年五月三〇日付で、原告に対し、その請求に係るいずれの月分についても更正をしないことの通知をし、原告は、同年七月二四日、これに対する異議申立をしたが、被告税務署長は、同年一〇月二九日、右異議申立を棄却する決定をした。原告は、同年一一月二六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同署長は、昭和六二年六月二五日、被告税務署長の前記更正をしないことの通知のうち、昭和六〇年一月分から同年五月分までの分については、これを取消したが、昭和五九年一一月分及び同年一二月分については、原告の審査請求を棄却した(以下、被告税務署長の更正をしないことの通知のうち裁決によって取消されなかった右各月分を「本件処分」という。)。

3  本件処分の違法性

(一) 破産会社の商法の概要

(1) 破産会社は、ダイヤモンドの購入を顧客に勧め、顧客がこれに応じると、売却したダイヤモンドを破産会社が賃借して運用すると称して、右ダイヤモンドを破産会社に預けるように勧め、顧客からダイヤモンドの代金の名目で金員を預り、契約期間満了日にダイヤモンドを返還することを約束し、その証拠として顧客に証券を渡す商法を行っていた。右ダイヤモンドの賃料の支払方法には、賃借期間一年につきダイヤモンド価格の一〇パーセントを契約時に売買価格から差引いて受取る方法と、毎月一パーセント(年一二パーセント)ずつ受取る方法の二種類があり、前者をダイヤモンドプラン契約(以下「プラン契約」という。)、後者をダイヤファンド契約(以下「ファンド契約」といい、右契約とプラン契約を併せて「本件各契約」という。)という。

(2) 破産会社は、右のとおり、ダイヤモンドを販売するが、現物を交付せず、預り証のみを発行し、また、ある顧客に販売したダイヤモンドをさらに他の顧客に販売するといった重複販売を行い、右事実を顧客には秘匿している。重複販売は、すべてのダイヤモンドについて行われ、多いものでは五回以上にわたって行われたものがある。

(二)(1) 物品税基本通達五条では、小売につき次のとおり定めている。

<1> 小売の時期は、販売契約に基づきその小売をした第一種の物品の所有権が消費者に移転したときをいうものとする。ただし、割賦販売の場合等で当該第一種の物品の所有権が移転する前にその占有権が移転するものについては当該占有権が当該消費者に移転したときをいうものとする(同通達五条二)。

<2> 物品を消費者に引渡す前に当該消費者から金銭を領収した場合においてこれを前受金・予約金又は預り金等として処理し、当該物品を引渡した時点で売上に計上する会計処理を継続的に行っているときは、物品を消費者に引渡した時点で小売の時期として取扱っても妨げない(同通達五条三)。

<3> 物品の販売業者が賃貸借等と称して第一種の物品を消費者に引渡した場合において、その賃貸借等の期間、保証金及び賃貸料等と称して授受することとしている金額並びに当該期間終了時における処理等からみて、当該行為が実質的には第一種の物品の小売と認められるときは、その引渡の時に小売したものとして取扱う(同通達五条五)。

(2) 右通達は、形式的に所有権が移転していなくても、占有が移転し実質的支配の移転があるときはこれを小売と定義し、また、金銭を領収していても、引渡未了の物品については、引渡時点を小売の時期とすることを許容し、あるいは、その名目が賃貸借であっても、実質的に物品の支配が移転したときは、これを小売とすることとしており、物品税の課税要件である小売の成否を消費者に当該物品の実質的支配権が移転するか否かを基準として判断することとしている。

(3) 破産会社の前記商法では、破産会社が顧客にダイヤモンドの所有権及び占有権を実質的に移転することは不可能であること、ダイヤモンドの販売といっても、顧客は単に預り証を受取るにすぎず、ダイヤモンドの占有の移転は当初からまったくないこと、破産宣告後、顧客である債権者からは所有権あるいは売買契約に基づくダイヤモンドの返還請求は一件もなく、原告は、破産申立代理人から破産財団を構成する財産としてダイヤモンドの引渡を受け、裁判所もこれを認め、裁判所が作成した破産債権届出書のどこにもダイヤモンドの引渡の請求を記載する欄がないなど、破産会社、顧客(債権者)、裁判所、原告ら、破産会社の破産の手続に関与した関係者のいずれも、ダイヤモンドの所有権は破産会社に帰属していると認識していることなどからすると、右通達の趣旨に鑑み、破産会社が行ったダイヤモンドの販売は、物品税の課税対象の小売には該当しない。

(三) 仮に破産会社のダイヤモンド販売が小売にあたるとしても、右ダイヤモンドの重複した販売は、破産会社ぐるみで、組織的計画的になされた極めて悪質な詐欺行為であり、正義と衡平の法の理念に照らして許容できず、公序良俗に反し当然無効な行為である。

(四) 以上のとおり、破産会社がしたダイヤモンドの販売は、物品税の課税対象である小売に該当しないし、また、仮に右ダイヤモンドの販売が小売にあたるとしても、公序良俗に反し無効であるから、本件処分は違法である。

4  更正の請求の期間について

(一) 破産会社がしたダイヤモンド販売には、物品税の課税対象となる売買行為がなく、右販売は、小売に該当しないから、そもそも、破産会社に納税義務は成立していない。そうである以上、その法定申告期限は考えられないから、本件更正の請求は、更正請求をなしうる期限内になされたものといえる。

(二) 仮に破産会社のダイヤモンド販売についても法定申告期限が観念できるとしても、破産財団に関して事件が裁判所または行政庁に係属しているときは、その手続は破産手続の解止まで中断する旨の民訴法及び破産法の規定の趣旨に照らして、更正の請求の期間は、本人が破産した場合には中断し破産手続が解止するまで満了しないと解すべきである。

(三) 破産手続における債権表の記載は国税通則法(以下「通則法」という。)二三条二項一号に規定されている「判決と同一の効力を有する和解その他の行為」に該当する。また、本件各申告において、同号の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」とは、破産会社が顧客にダイヤモンドを現実に販売した事実であるが、仮にダイヤモンドが現実に販売されたのであれば、顧客は取戻権を行使して原告の占有下にあるダイヤモンドの返還を請求するはずであるのに、顧客は、金員を詐取されたとして破産債権の届出をして、取戻権の主張を一切しておらず、一方、その届出債権は、破産管財人である原告の調査を受け、確定債権として債権表に記載されている。右債権表への確定債権の記載は、破産会社が顧客にダイヤモンドを現実に販売したとの事実とは、二律背反するものであり、判決と同一の効力を有する和解その他の行為である債権表への右記載により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が、当該計算の基礎としたところと異なることが確定されたものといえる。ところで、右債権表への記載は昭和六一年七月一日になされたから、同年二月二八日になされた本件更正の請求は、通則法二三条二項一号により期間内の請求として適法となる。

(四) 破産管財人である原告が更正の請求をすることができるのは破産宣告後であり、また、本件の場合、次のとおり、破産宣告により、通則法二三条二項三号に基づく国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)六条一項三号に規定する「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができない」事態が生じたものというべきであるから、本件において、更正の請求をなしうる期間の始期を破産宣告の日と解すべきである。

(1) 原告は、破産宣告がなされた昭和六〇年八月二一日当日、直ちに、大阪地方裁判所執行官とともに破産会社の本社において財団に属する財産の封印に着手し、破産財団に属する一切の動産を占有し、破産申立代理人から破産会社の資料を受取った。しかし、右資料中には、会計帳簿等破産会社の営業、経理に関する帳簿書類はなく、せいぜい顧客名簿と給与台帳といったものしかなかったし、破産会社の本社にもめぼしい帳簿書類等はほとんど発見できなかった。そして、原告が収集した資料には、破産会社が会計処理を依頼していた税理士事務所から交付を受けた貸借対照表、損益計算書と、膨大な伝票の束以外には、破産会社の経理を解明するのに必要な帳簿書類はなかった。そこで、原告は、伝票を一枚一枚検討し、これに基づき破産会社の金の流れをつかみ、ようやく破産会社の営業の全体像を解明しえたのである。さらに、この間、右作業と並行して、破産会社の隠し財産及び役員の個人資産の調査、個人財産に対する仮差押を行っていった。また、破産会社の関連会社である株式会社ワールドベンチャーキャピタル及びパシフィックダイヤモンドカンパニー(いずれも破産宣告を受けた。)においても同様の調査、手続を並行して進め、破産会社グループ全体としてその資金の流れ及び営業実態の解明に全力を集中した。

(2) 原告は、破産会社の営業実態が次第に解明されるにしたがい、右営業実態は、いわゆるペーパー商法であり、なんらダイヤモンドの売買を伴っていないことを確信するに至った。一方、原告は、破産会社の営業がダイヤモンド売買の形式をとっている以上、物品税を支払っているのではないかとの疑念を抱いたが、前記のとおり、破産会社には帳簿書類等がなく、物品税を納付しているか否かさえ明らかではなかったので、管轄税務署である東淀川税務署に赴き、物品税の納付の有無を調査して、その納付の事実を確認した。しかし、この時点では、第一回債権者集会を間近に控えて報告書の作成のため全力を集中せざるをえず、また、破産会社が納付した物品税の返還を受けることが可能か否かについて判断するための資料が著しく不足し、これについて詳細な検討を加えるための物理的かつ時間的余裕がまったくなかった。そこで、原告は、やむなく、報告書には、物品税返還の可能性があることを記載するにとどめた。

(3) 原告は、第一回債権者集会終了直後から、本格的に物品税の返還を受けるための検討に入った。破産会社の営業では実際にダイヤモンドを顧客に引渡すことはほとんどなかったが、まれには現実にダイヤモンドを引渡してしまい、賃貸借契約を締結しない場合もあった。そのため、原告は、顧客の提出した債権届出書、破産会社の顧客台帳及び本件各契約の契約書を一枚一枚照合して、実際に売買していない件を拾い上げていったが、この作業に膨大な時間と労力を要した。

(4) 以上のとおり、原告は、自己のあずかり知らない事情により破産会社の帳簿書類等が散逸し、そのためこれを利用することができず、やむをえず、法定申告期限から一年以内に更正の請求をすることができなかったのであり、右事情は、通則法施行令六条一項三号に規定する事情にあたる。

5  被告国の不当利得

仮に原告の被告税務署長に対する本件請求が認められないとしても、原告は、次のとおり、被告国に対する不当利得返還請求権を有するものである。

破産会社によるダイヤモンドの販売は小売に該当せず、破産会社には物品税の納税義務が成立していなかったものであり、破産会社の行った本件各申告には錯誤があり、右錯誤は客観的に明白かつ重大である。そして、被告国は、破産会社の損失のもとに、破産会社が納税義務がないにもかかわらず納付した本件各申告にかかる物品税額合計八七五万六〇〇円につき利得をしているものである。また、本件の場合には、仮に本件更正の請求が認められなければ、破産会社が納付した金員の実質的出捐者である被害者は、破産会社がした納税義務のない納税について、その是正の方法がないこととなるので、税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある。

6  予備的請求の適法性

本件の主位的請求の被告である被告税務署長は、予備的請求の被告である被告国の行政機関であり、実質的にみると両者の一体性が認められ、本件の主位的請求と予備的請求は、形式的には、いわゆる主観的予備的併合にあたるが、実質的には客観的予備的併合と同一とみることができ、右併合請求は、訴訟経済に適い、原告にとって便宜であるばかりか、被告の地位を不安定にするという弊害も存しないから適法である。

7  よって、原告は、主位的に、被告税務署長に対し、同被告が昭和六一年五月三〇日付で原告に対してした昭和五九年一一月分及び同年一二月分の物品税の更正をしないことの通知の取消を、予備的に、被告国に対し、不当利得返還請求権に基づき、八七五万六〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六二年一〇月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)、(二)の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3(一)(1)の事実は認める。同3(一)(2)の事実は知らない。

(二)  同3(二)(1)、(2)の事実は認める。

同3(二)(3)の事実及び主張は争う。

(三)  同3(三)、(四)の事実及び主張は争う。

4  同4、5の事実及び主張は争う。

5  同6の事実中、本件の主位的請求の被告である被告税務署長は、予備的請求の被告である被告国の行政機関であること、本件の主位的請求と予備的請求は、いわゆる主観的予備的併合にあたることは認める。

三  被告らの主張

1  本件処分の適法性について

(一) 破産会社は、被告税務署長に対し、昭和五九年一二月二二日、納付税額を二三二万四二〇〇円とする同年一一月分の、昭和六〇年一月三〇日、納付税額を六四二万六四〇〇円とする昭和五九年一二月分の物品税の各納税申告(本件各申告)をした。

(二) 原告は、昭和六一年二月二八日、被告税務署長に対し、右各物品税につき、その本税額全額がそれぞれ還付金相当額である旨の更正の請求をした。

(三) しかし、更正の請求をすることができる期間は、通則法二三条一項により、法定申告期限から一年以内とされているところ、昭和五九年一一月分の物品税については、その法定申告期限(法二九条一項)である同年一二月三一日から一年以内の昭和六〇年一二月三一日までが、また、昭和五九年一二月分の物品税については、その法定申告期限である昭和六〇年一月三一日から一年以内の昭和六一年一月三一日までがそれぞれ更正の請求の期間となるが、本件更正の請求は、右の各期間経過後になされたものであり、また、通則法二三条二項にも該当しない不適法なものである。なお、通則二三条一項では、更正の請求をすることができる者は、納税申告書を提出した者であるとされているが、本件のように納税申告書を提出した者が破産宣告を受けた場合には、破産財団の管理処分権が破産管財人に専属することになるから(破産法七条)、当該破産管財人が破産者の有していた更正請求権を行使できることになる。そして、通則法二三条一項の請求の期間制限は破産管財人が行使する場合にも適用される。

したがって、本件処分は適法である。

2  不当利得返還請求について

実体上の課税要件の充足は、申告者が申告意思を決定する際に、その前提として認識すべき対象であるにすぎず、自由な意思によって納税申告行為がなされた以上、実体上の課税要件の充足の有無は直ちに右行為の効力に消長をきたすものではない。本件各申告は、破産会社の自由な意思に基づいてなされたものであり、また、仮に破産会社のしたダイヤモンドの販売が小売に該当しないとしても、右ダイヤモンドの販売が小売に該当するか否かは、諸事情を総合勘案して初めてわかるというものであって、小売に該当しないことが明白であるとは到底いえず、本件各申告は少なくともその外見上になんらの瑕疵がないものであるから、たとえ小売の事実がなかったとしても、重大かつ明白な瑕疵が存するということはできず、本件各申告によって破産会社の納税義務は確定する。そして、一旦、申告によって物品税の納税義務が確定した以上、確定された納税義務は、更正の請求によって更正されるほかこれを変更することはできない。

したがって、被告国が破産会社から本件各申告に係る物品税の納付を受けたことについては、法律上の原因が存する。

3  原告の更正請求の期間遵守についての主張に対する反論。

(一) 原告は、破産会社のダイヤモンド販売については、課税対象となる売買行為がなく、破産会社の納税義務が成立していないから、右販売行為について、法定申告期限は考えられない旨主張するが、通則法二三条一項が「当該申告書に係る国税」の法定申告期限と規定している以上、昭和五九年一一月分として申告された物品税の法定申告期限が同年一二月三一日であり、昭和五九年一二月分として申告された物品税の法定申告期限が昭和六〇年一月三一日であることは明らかであり、右期限から一年内になされなかった本件更正の請求は不適法である。

(二) 原告は、本人が破産した場合には、更正の請求期間は破産手続が解止するまで満了しないと解すべきである旨及び破産管財人である原告が更正の請求をした本件において、通則法二三条一項の適用にあたっては、更正の請求をなしうる期間の始期を破産宣告の日と解すべきである旨主張するが、物品税の申告書を提出した者が破産した場合に、更正の請求の期間が中断したり、破産手続の解止まで満了しない旨を定めた法律の規定はなく、また、破産管財人は破産財団の管理処分権を専有し、破産者の有していた更正請求権を行使できるのであるから、破産管財人の法的地位の特殊性を考慮しても、破産管財人である原告を更正の請求に関して特別な取扱をすべき根拠はない。

(三) 原告は、破産法二四二条にいう債権表の記載は、通則法二三条二項一号に該当するので、本件更正の請求は同条項同号の期間内になされた旨主張するが、原告の主張では、債権表に確定債権が最終的に記載されたのは昭和六一年七月一日であるというのであるから、本件更正の請求の時点(同年二月二七日)ばかりか、本件処分時(同年五月三〇日)においてすら、通則法二三条二項一号に該当する事由はなんら存在していなかったこととなるし、また、原告は右の点について本件更正の請求の理由としてなんら主張していなかったものであるから、本件について、同条項同号が適用される余地はない。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1(一)、(二)の事実は認める。同1(三)の事実及び主張は争う。

2  同2、3の事実及び主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一  主位的請求について

一  請求原因1(一)、(二)、2、3(一)(1)、3(二)(1)、(2)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  本件更正の請求の期間遵守について

1  通則法二三条一項は、納税申告書を提出した者(その相続人その他当該提出した者の財産に属する権利義務を包括して承継した者を含む。同法一九条一項。)は、「当該申告書に係る国税の法定申告期限から一年以内に限り」更正の請求をすることができると規定するところ、昭和五九年一一月分の物品税の法定申告期限は、同年一二月三一日、同年一二月分の物品税の法定申告期限は、昭和六〇年一月三一日である(法二九条一項)から、右各月分の申告につき、更正の請求をすることのできる期間は、それぞれ、昭和五九年一一月分は昭和六〇年一二月三一日まで、昭和五九年一二月分は昭和六一年一月三一日までとなる。

ところで、前記一の事実によれば、本件更正の請求は、納税申告書を提出した破産会社が破産宣告を受けた後に、破産会社の破産管財人である原告がしたものであるが、破産財団の管理処分権限は破産管財人に専属し、納税申告書を提出した者が破産宣告を受けた場合には、破産管財人は、破産財団の内容に影響を及ぼすこととなる更正の請求をなしうるというべきであるから、破産会社の破産管財人である原告は、本件更正の請求をなしうる権限を有するものということができる。しかし、本件更正の請求は昭和六一年二月二八日になされたものであり、本件各申告に係る物品税については、いずれも請求をすることのできる期間経過後になされたこととなる。

2(一)  原告は、破産会社がしたダイヤモンド販売は小売に該当せず、破産会社に納税義務は成立していないから、その法定申告期限は考えられず、本件更正の請求の期間の制限もない旨主張する。

しかし、通則法二三条一項は、更正の請求の期間につき、前記1のとおり、「当該申告書に係る国税の法定申告期限から一年以内」と規定しているのであって、その期間は、実体的な納税義務成立の有無やその時期とは関係なく、提出された申告書の記載内容にしたがって定まるものと解すべきである。何となれば、原告主張のように、実体的な課税要件が欠けて納税義務が成立していない場合に通則法二三条一項の更正の請求の期間の制限が働かないものと解すると、本来更正の請求をなしうる典型的な場合について、期間の制限がないことになって、法律関係の早期安定、税務行政の能率的運営等をはかるために設けられた同条項の趣旨に沿わない結果をきたし、相当でないからである。したがって、本件申告に係るダイヤモンド販売が小売にあたらず、破産会社に納税義務が成立していないとしても、右各申告についての更正の請求の期間は、申告書の記載内容にしたがって定まる前記1の法定申告期限から一年以内というべきであるから、原告の右主張は失当である。

(二)  原告は、破産財団に関して事件が裁判所または行政庁に係属しているときは、その手続は破産手続の解止まで中断する旨の民訴法及び破産法の規定の趣旨に照らして、更正の請求の期間は、本人が破産した場合には中断し、破産手続が解止するまで満了しないと解すべきである旨主張するが、納税申告書を提出した者が破産宣告を受けた場合に、更正の請求の期間が「中断」したり、破産手続の解止まで右期間が満了しない旨を定める法規は存しないし、破産法七一条二項は、破産財団に属する財産に関し破産宣告の当時行政庁に係属する事件について、民訴法二一四条は、破産宣告時に裁判所に係属する破産財団に関する民事訴訟事件について、いずれもその手続が受継または破産手続の解止まで中断する旨規定するが、右各規定は、いずれも破産宣告当時、現に係属する事件について、従来の手続追行者であった破産者がその権限を失うことから、新たな手続追行者への手続への関与を保障するために設けられた規定であり、本件更正の請求のように新たな請求についての期間の伸長になんら関係がなく、これらの規定の趣旨を右期間の伸長に類推すべきものということもできない。したがって、原告の右主張も失当である。

(三)  原告は、破産会社の顧客は、ダイヤモンドについて取戻権の主張をせず、金員を詐取されたとして破産債権の届出をし、その届出債権は確定債権として債権表に記載されているが、破産手続における債権表の記載は通則法二三条二項一号に規定されている「判決と同一の効力を有する和解その他の行為」に該当し、かつ、右記載は、本件各申告における課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実、すなわち、ダイヤモンドの販売の事実とは相反するものであるから、破産会社についての債権表への前記確定債権の記載により、右事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したこととなる旨主張する。

ところで、通則法二三条二項一号は、納税申告後、申告時には予知しえなかった事態が生じたことにより、さかのぼって税額の減額等をなすべきこととなった場合に更正の請求をすることを認めたものであるから、同条項一号に規定する「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為……)」は、課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実に影響を及ぼしうるものでなければならないが、破産会社の顧客が、破産会社に対して販売を受けたダイヤモンドの代金相当の金員の賠償請求権を有するとして、右請求権を破産債権として届出ることは、販売を受けたダイヤモンドの返還請求権を有することと必ずしも両立しないわけではないことからすると、右破産債権の確定は、破産会社がダイヤモンドの小売をしていないとの事実を確定するものということはできないから、同条項一号にいう課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実が、右債権表への記載により、当該計算の基礎としたところと異なることが確定したことになるとはいえないことが明らかである。

したがって、原告の右主張も失当である。

(四)  原告は、本件では、破産宣告により、通則法二三条二項三号に基づく通則法施行令六条一項三号に規定する「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができな」い事態が生じたから、更正の請求をなしうる期間の始期を破産宣告の日と解すべきである旨主張する。

<証拠>を総合すると、原告は、破産宣告がなされた昭和六〇年八月二一日、大阪地方裁判所執行官とともに破産会社の本社に赴いて、破産財団に属する財産の封印に着手してダイヤモンド八一個を含む動産の占有を取得し、破産申立人から顧客名簿、給与台帳、預金通帳等破産会社の営業・経理に関する資料を受取ったこと、右資料中には、会計帳簿はなかったこと、その後、原告は、破産会社が会計処理を依頼していた税理士事務所から貸借対照表、損益計算書、伝票類等の引渡しを受けたこと、原告は、それらの諸資料を検討するほか、グループを形成していた会社(株式会社ワールドベンチャーキャピタル及び株式会社パシフィックダイヤモンドカンパニー。いずれも破産宣告を受けた。)の破産管財人と協力してグループ全体の営業内容、資金の流れの解明につとめたこと、その結果、原告は、昭和六〇年一〇月一五日の第一回債権者集会までには、破産会社の設立の経過、グループ会社との関係、破産会社の事業内容、特にダイヤモンド販売契約の実態、破産会社の経理の実情等を調査してその大筋を把握し、破産会社の物品税の申告及び納付状況についても、東淀川税務署に赴くなどして調査してこれを具体的に把握したこと、原告は、右債権者集会への報告書には納付した物品税の還付の可能性についても言及していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、納税申告書を提出した破産会社が破産宣告を受けたことにより、直ちに、通則法施行令六条三号にいう「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合」にあたる事態が生じたとみることはできないのみならず、たとえ、場合によっては破産宣告により、右事態が生じたと解する余地があるとしても、右認定事実によれば、本件においては、原告は、遅くとも昭和六〇年一〇月一五日の第一回債権者集会までには、納付した物品税の更正の請求をなしうるだけの資料ないし知見を有するに至ったというべきであり、右事態は、遅くとも第一回債権者集会までには消滅したものというべきであって、通則法二三条二項三号、通則法施行令六条一項三号に定める更正の請求をすることができる期間は昭和六〇年一〇月一五日の翌日から起算して二か月以内であり、その満了日は、本件各申告に係る物品税についての更正の請求をすることのできる期間の満了日(昭和六〇年一二月三一日と昭和六一年一月三一日)より前に到来するのであるから、右各条項を適用する余地はない(通則法二三条二項参照)。したがって、原告の前記主張は失当である。

3  以上によれば、原告の本件更正の請求のうち、本件各申告に係る物品税についての更正の請求は、いずれも請求の期間内になされなかったものであるから不適法であり、被告税務署長が右更正の請求に対してした更正をしないことの通知(本件処分)は適法である。

第二  予備的請求について

一  予備的請求の適法性について

本件予備的請求の併合は、いわゆる主観的予備的併合に該当するが、本件の場合、主位的請求の被告である被告税務署長は予備的請求の被告である被告国の行政機関であり、両者は実質的に一体であるとみることができ、右両請求の併合審理により、訴訟経済にも適うとともに、予備的請求の被告の地位を不安定にすることもないと考えられるから、本件予備的請求の併合は適法というべきである。

二  本件各申告に係る物品税の納税義務の成否について

1  前記第一の一の事実、<証拠>を総合すると、破産会社は、顧客に対し、ダイヤモンドの購入を勧め、顧客がこれに応じると、販売したダイヤモンドを破産会社が貸借ないし受託して運用すると称してこれを破産会社に預けるように勧めて、後記のプラン契約ないしファンド契約(本件各契約)を締結させ、ダイヤモンドの納品書及び領収書とともにダイヤモンド預り証券(プラン契約の場合)ないしダイヤファンド証券(ファンド契約の場合)を交付すること、プラン契約では、販売代金の一〇パーセントを賃料として顧客に支払うこととして、販売代金から右金額を控除し、ダイヤモンドの預り期間(一年)経過後、同種、同銘柄、同数量のダイヤモンドを返還するとの、また、ファンド契約では、ダイヤモンドの代金の一パーセントを月々運用益として支払い、預り期間(一年)経過後販売したダイヤモンドを返還するとの各約定であること、破産会社の外交員は、顧客に本件各契約を勧誘するにあたっては、もっぱら有利な利殖であることを強調し、一方、顧客も、ダイヤモンドを購入するとの意識はなく、確実で有利な利殖と考えて、ダイヤモンドの現物を見ることなく本件各契約に応じたこと、破産会社が仕入れたダイヤモンドの総数は一〇〇個程度であるのに対して、本件各契約の総数は三五五件にも上り、一個のダイヤモンドにつき複数件の契約が結ばれ、多いものについては一八件もの契約が結ばれていること、仕入れたダイヤモンドは、いずれも指輪やペンダント等に加工されておらず、裸石のままであること、本件各契約を締結して現実にダイヤモンドを引渡した例はないこと、顧客が中途解約した場合でも、破産会社は、顧客に対し、現物のダイヤモンドを返還することなく金銭を支払って清算していること、本件各契約を締結した顧客は、原告に対して、取戻権の行使としてダイヤモンドの引渡を請求せず、代金相当の金員の支払請求権を破産債権として届出ていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、第一種の物品についての物品税の課税要件である「小売」とは、当該物品の所有権を移転すべく消費者に販売することと解すべきであり、そのような販売行為があったか否かを判断するにあたっては、形式上売買契約がなされているか否かではなく、取引の実態に即して判断すべきである。

これを本件の破産会社のダイヤモンド販売についてみると、右1の事実によれば、破産会社と顧客との間には、売買契約が結ばれ、納品書の交付も行われているなど、これを形式的にみると、小売があったものと解しうるかの如くであるが、両者の間には、売買契約と同時に、常に破産会社から顧客に販売された当該ダイヤモンドについての賃貸借契約ないし預託契約など実質的に右売買契約と一体となった本件各契約が取交わされ、破産会社から顧客への現実のダイヤモンドの引渡しは契約上予定されていなかったこと、破産会社は、顧客から金銭を集める方便として、ダイヤモンドの売買契約の形式を利用したにすぎず、本件各契約で定める賃借期間ないし受託期間満了後も顧客に現物のダイヤモンドを引渡す意思はなかったし、また、その引渡は実際には不可能か極めて困難であったこと、一方、顧客も、ダイヤモンドの売買契約を本件各契約と一体となった有利な利殖のための契約と考え、特定のダイヤモンドを購入し、所有権を取得したとの意識はなかったことが認められ、右事情を総合勘案すると、破産会社のしたダイヤモンドの販売は、売買の実体を欠き小売にはあたらないというべきである。

3  通則法は、申告納税方式による国税の申告額の過誤を納税者側から是正する方法について、その税額が過少であった場合には修正申告、その税額が過大であった場合には更正の請求の各方法を規定しており(同法一九条、二三条)、納税者側からの申告の過誤の是正は、原則として同法が特に定めた右の各方法によるとの建前をとっているものというべきであり、納税者が錯誤によって過大な税額を記載した申告書を提出した場合には、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、通則法の定めた更正の請求以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、国に対して不当利得の返還を請求するなど通則法で定める方法以外の方法によって申告書の記載内容の錯誤を主張することは許されないというべきである。

これを本件についてみると、前記第一の一の事実、第二の二の1の認定事実によれば、破産会社のした取引はダイヤモンドの売買の形式を備えていたもので、これが小売に当たらないことは、破産会社の取引の実体を、契約の内容、履行状況、破産会社の経営内容、契約当事者が契約に際して有していた意識などの諸事情を総合的に勘案して認定することにより初めて明らかにできる事柄であるから、破産会社の申告内容の錯誤が明白であるということはできないし、また、破産会社は、そのダイヤモンド販売が小売に該当しないにもかかわらず、該当するとの解釈のもとに本件各申告をしたことが認められるが、右事実によれば、破産会社は、自らが行った取引がダイヤモンドの売買の実質を欠き、単にその形式を借用したにすぎないことを熟知しており、申告の基礎となった事実関係についての錯誤はなく、単にその法的な評価を誤ったにすぎないこと、本件各申告は、破産会社がその取引の実体を隠蔽しこれが正常なものであることを仮装する一助とされていたことが窺えることなどの事情に鑑みると、本件について、通則法の定めた更正の請求以外にその是正を許されないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとは到底いえないものというべきである。

なお、原告は、破産会社と、債権者である被害者の利益をも擁護することが期待される破産管財人である原告との立場の違いを強調するが、破産管財人は、破産者が破産宣告により破産財団に関して有していた管理処分権を失うこととなる反面、その管理処分権を自己の名において行使するものであり、本来、破産者が破産宣告前に有していた権限の範囲を超えた特別の権限を有するものではなく、本件更正の請求も右管理処分権の行使として原告に許容されるのであるから、破産会社が錯誤による申告の無効を主張できない以上、原告もこれを主張することはできないというべきである。

第三  結論

よって、原告の請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 佐々木洋一 裁判官 朝日貴浩)

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